「ロジカル・シンキング」、「クリティカル・シンキング」という言葉について、近年ビジネスの場で使われることが多くなってきたため、耳にしたことがある人も多いと思います。
特に”仕事ができる”人になるためには、必須の能力のため、昇進や成果を出すために身に付けたいと考えている人も多いのではないでしょうか?
今回は、ロジカル・シンキングという言葉を初めて聞く方から、業務で耳にタコができほど聞いたが、どうすれば実践できるようになるかわからないという方に向けて、ロジカル・シンキングの説明から、具体的な習得方法について幅広く解説していきます。
ロジカル・シンキングとは?
ロジカル・シンキングの意味
日本語では「論理的思考」と訳されます。
様々な定義がありますが、
「自分が実行したいことについて、誰が聞いても納得・承認してくれる説明をするための思考方法」
というのが一番かんたんな説明です。
「クリティカルシンキング」と「ロジカル・シンキング」の違い
クリティカル・シンキングとは、日本語では「批判的思考」と訳されます。
端的に言えば、「自分の意見に客観性を持たせるために、提示された情報を鵜呑みにせずに考える姿勢・思考方法」のことです。
しかし、本質的にはロジカル・シンキングも、クリティカル・シンキングも、
「自分が実行したいことについて、誰が聞いても納得・承認してくれる説明をするための思考方法」
であることには変わりません。
学術的には違いがありますが、「仕事ができるようになる」ことを目的においた場合、この2つを分けて理解・トレーニングする必要はないでしょう。
ロジカル・シンキングのメリット
ロジカル・シンキング、クリティカル・シンキングができるようになると、下記のような力が身につきます。
- 課題発見能力(分析力)
- 課題解決能力(提案力)
- コミュニケーション能力
- マネジメント力
この力が身につくことにより、
- 自身の生産性が上がる(同じ時間でロジカル・シンキングができない人より多くの成果を残すことができる)
- 仕事に再現性が生まれ、失敗が減る(ロジカルに思考し、行動するため、成功確率が上がる)
- 全く知らない業務でも成果を出せるようになる(その会社だけで役立つ力ではなく、どの業界でも役立つため、転職先などでも有利になる)
というメリットがあります。
ロジカル・シンキングの手法
市販の本や、ネットに上がっている情報では、ここに対しての情報が薄いので、より詳しく書いていきたいと思います。
ロジカル・シンキングに関わる用語の整理と思考の流れの図解
ロジカル・シンキングに関わる本や、情報を見ると、以下のような文言がたくさん出てきます。
ここでは、その言葉が実際にロジカル・シンキングが行われる過程のどのタイミングで使われるのか図解します。
ロジカル・シンキングに出てくる用語一覧
- ゼロベース思考
- 仮説思考
- 目的思考
- 演繹法
- 帰納法
- Why so?
- So what?
- フレームワーク
- MECE(漏れなくダブりなく Mutually Exclusive and Collective Exhaustive)
- ロジックツリー
- 5W1H
- 3C分析【自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)】
- SWOT分析【内部要因の強み(Strengths)、内部要因の弱み(Weaknesses)、外部要因の機会(Opportunities)、外部要因の脅威(Threats)】
- 4P分析【商品(Product)、価格(Price)、販促(Promotion)、流通(Place)】
Etc…
ロジカル・シンキングに関わる用語と思考の流れの図解
ロジカル・シンキングをするって結局どういうことか?
ここまで記事を読んでいる人は、会社で上司に
「もうちょっと考えてから、資料作って」
「何も考えてないじゃん」
「ノーロジック過ぎて全然わからない。やり直しで」
みたいなことを言われてきた人かと思います。
私も経験がありますが、そのようなことを言われ続けると、そもそも「考える」という言葉は非常に抽象的なので、
「そもそも考えるってなんだっけ?」と迷子になってしまいますよね。
「ロジカル・シンキング」については多くの本が出版されており、頭が良い人しかできない非常に難しい事のように考えられがちですが、本質は以下の4点だけです。
- 仮説思考・ゼロベース思考・目的思考の立場に立つこと
- 情報をフレームワークで整理すること
- 結論を出す過程で演繹法・帰納法を用いて論理を整理すること
- 意見や事実に対してWhy so? So what?を繰り返すこと
まずはこの4点を抑えて、仕事に臨んでみましょう。
ロジカル・シンキングの思考の流れ
それでは、下記図について詳しく説明していきましょう。
前提:仮説思考・ゼロベース思考・目的思考
用語の中の「仮説思考・ゼロベース思考・目的思考」については、ロジカル・シンキングを行う上での前提の姿勢になります。
仮説思考とは?
現時点で自分が持つ情報で仮説を立て、解決策を提示する姿勢のことです。
なにかの課題に対して解決策を考える際に、論理展開に必要な情報が常に揃っていることはなかなかありません。
その場合には、必要な情報をすべて洗い出してから考えるのではなく、現状持っている情報から「So what?(だから何が言えるのか)」を繰り返し考え、何かを意味する新しい情報を自ら作り出す必要があります。
もちろん、時間と費用の制限がなければ、必要な情報をすべて洗い出してから考えるべきなのですが、ビジネスでは最小限のコストで最大の利益を出すことを常に求められるため、べストを考えるよりも、ベターを優先することが重要なのです。
ゼロベース思考とは?
人は自分の人生しか生きることができないため、何かを考えるときに自分の偏った経験から導き出される思考にひっぱられています。
ゼロベース思考とは、そのような偏った思考や、既成の枠にとらわれずに思考を行う姿勢のことです。
上司からの指示や、プロジェクトの進行において、何度考えても「できない」「無理だ」「実現不可能だ」といった結論を導き出してしまうことはよくあるのではないでしょうか?
しかし、そのようなときには、常識や前提により、自分で勝手に選択肢を制限していることが多々あるでしょう。
クリティカル・シンキングにも繋がりますが、思考する際に、自分が勝手に制限条件をつけていないかを見直すことでゼロベース思考が習得できるようになります。
目的思考とは?
なんのために、今考えているのかを必ず明確にした上で、思考を行う姿勢のことです。
目的が定まっていないと、ロジカル・シンキングができていても、課題の解決策があさっての方向になってしまうことは大いにあります。
ロジカル・シンキングを進めていく中で、1ステップ進む度に、必ず目的を達成できる議論が行えているかを確認しましょう。
STEP1:情報収集
ロジカル・シンキングを行う前提の姿勢を持ちつつ、思考を行う上での材料、情報を集めていきます。
この際に使うのが、フレームワークの中でも以下のものです。
- MECE(漏れなくダブりなく Mutually Exclusive and Collective Exhaustive)
- ロジックツリー
- 5W1H
- 3C分析【自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)】
- SWOT分析【内部要因の強み(Strengths)、内部要因の弱み(Weaknesses)、外部要因の機会(Opportunities)、外部要因の脅威(Threats)】
- 4P分析【商品(Product)、価格(Price)、販促(Promotion)、流通(Place)】
ただの事実を、なんらかの示唆が得られる情報に加工(人が認識しやすいようにまとめたり、分けたりする)していきます。
フレームワークはこのような「情報の整理・加工」を行うときに絶大な力を発揮します。
STEP2:課題・原因の見える化
このステップでは、フレームワークにより整理した情報から「何が言えるのか(So what?)」を可視化していきます。
もしくは、すでに顕在化している課題に対して、「なぜそう言えるのか?(Why so?)」を繰り返し原因を特定していきます。
ここでは、フレームワークのMECE、ロジックツリーが一番役に立つでしょう。
また、事実から、どのようなことを言えるのか論理を整えていくときに重要なのが「帰納法」です。
帰納法とは、様々な事実や事例をもとに導き出される傾向をもとに論理を導き出す方法のことを言います。
<例> Aさんは10代にリンスを使用していて、20年後にハゲた Bさんは10代にリンスを使用していて、20年後にハゲた Cさんは10代にリンスを使用していて、20年後にハゲた →結論:人はリンスを使用していると20年後にハゲる
ある複数の事実から共通の傾向を見つけて一般化することで、一見なんのつながりもない事実から示唆を得ることができます。
分析の際に役立つので、ぜひ覚えておきましょう。
STEP3:課題の解決策を考える
ここではSTEP2で導き出した課題・原因に対して解決策を考えます。
役立つツールとしては、フレームワークのMECEと帰納法、そして演繹法です。
演繹法とは、帰納法と対になる理論的推論方法であり、すでに証明済みである論理をもとに新しい論理を導く方法のことを言います。
<例> 証明済みである論理①人間は必ず死ぬ 証明済みである論理②私は人間である →結論:私は必ず死ぬ
すでに前例がある仕事や、証明されている法則をもとに、事実から論理を展開することで、ロジカルさが増します。
裁判で言う凡例みたいなものですね。
ここではSTEP3で考えた改善策を計画に落として実行していきます。
役立つツールは、5W1Hです。
5W1Hとは
- When … いつ(時間)
- Where … どこで(場所)
- Who … 誰が(主体)
- What … 何を(物・行動)
- Why … なぜ(理由)
- How … どのように(手段)
の頭文字のアルファベットをとったものです。
何かを実行していくときには、この5W1Hが明確に決まっていれば、スムーズに進行できるでしょう。
論理的思考力を鍛える方法
ここでは、ロジカル・シンキング(論理的思考力)を鍛える訓練方法を紹介します。
方法①:日常で使う言葉を具体的にする
ロジカル・シンキングの一番のトレーニングとなるのは、日常から言葉を正確に使うことです。
例えば、猫を見たことがない人に、猫について説明するとしましょう。
<例> A:「可愛くて、小さく、毛がふわふわした生き物」 B:「愛玩動物の一種であり、四足歩行で、体長平均は50cm程度、体重は5kg程度で、ふわふわした毛で覆われた生物」
上記のAとBでは、相手が想像するものと、こちらが説明しているものの差分が小さいのは、明らかにBと言えるでしょう。
このように、日常にあるものを、相手に言葉だけでできる限り正確に伝える訓練をすることは、ロジカル・シンキングの訓練になります。
ビジネスの場では、相手の認識と自分の認識が異なってしまっていたら大きなリスクに繋がりかねません。
日常的にミスコミュニケーションを生まないような言葉の言い回しをできるように訓練することで、相手に素早く正確に、情報を伝えることができます。
方法②:論理を展開する際には、論理の飛躍がないようにする
論理展開に飛躍がないように、ある事実から結論を導き出すための論理展開は、事実から用意に想定できる内容にしなければ、相手にわかりやすく伝える事はできません。
<例> 事実:「コップを落としたらコップが割れた」 説明① コップを手から離した → コップが割れた 説明② ガラス製のコップを手から離した → 手から離れたコップは、重力により固い地面に落ちた → コップの耐久力が地面に落ちた衝撃に耐えきれず、コップが割れた
ロジカル・シンキングができている説明は②ですね。
そもそもプラスチックのコップなら割れませんし、床にはカーペットが敷いてある可能性もあります。
はたまた、コップは割れにくいガラスを用いたコップかもしれません。
説明①は典型的な、論理飛躍がある説明です。
このように、相手の解釈を許さず、聞いているだけで事実が伝わるように言葉を使う訓練をすることで、あなたの説明はわかりやすくなります。
方法③:結論から話す
ビジネスの場で、あなたが何かを人に伝えるとき、必ずあなたは相手にリアクションを求めています。(そうでなければ、ただの雑談ですね)
そのリアクションは、だいたい以下の5つに限られます。
- 報告
- 連絡
- 相談
- 共有
- 承認
結論から話すことが苦手な人は、先ずは相手に上記を伝えることから始めましょう。
ポイントは、言葉を繋げすぎず、上の5つのワードを言い切る形で一旦言い切ることです。
<例1> 悪い例:「部長。△△で話していた〇〇の件についてですが、□□さんからこのように言われまして…」 良い例:「部長。〇〇の件について【ご相談】が2点あります。」
<例2> 悪い例:「課長。明日の△△社との打ち合わせについて、会議室が取れないので、社外の□□で調整したいと思ったのですが、費用が…」 良い例:「課長。明日の△△社との打ち合わせについて、経費利用の【ご承認】を頂きたいです。」
どうしても難しい人は、先ずは言葉に出す前に、言いたいことを紙に書き出して整理してみましょう。
紙に書き出して整理することも立派なロジカル・シンキングの訓練です。
方法④:日常のすべての行動に理由をつけてみる考えてる
日常の自分の選択に対して、論理を考える癖をつけてみると良いでしょう。
例えば、スーパーマーケットに行って、シャンプーを買うとします。
そのシャンプーを選ぶ理由を合理的に考えてみるのです。
<例> 現在の私の髪に対する課題は、以下2つ。 課題1.染毛をしているため毛へのダメージが多い 課題2.将来遺伝的にハゲる可能性が高い よって、 課題1への対策:ダメージ補修成分が多く入っているもの 課題2への対策:育毛効果があり、かつノンシリコンのもの 上記の条件を満たし、費用的に一番安価であるため、このA社のシャンプーを選択する
などです。
論理がつけにくいものに対してほど、この訓練の効果は出やすいです。
日常的に感覚で選んでいるものに対して、感情論ではなく、選ぶ理由を合理的に考えてみましょう。
方法⑤:セルフディベートで論理的思考を補強する
これは、自分が導き出した結論と論理展開に対して、人に話す前に、懐疑的な思考を持つ訓練です。
クリティカル・シンキングの特訓とも言えるでしょう。
抑えておいたほうが良い問いは以下の3つです
- 自分の偏見が入っていないか、恣意的な情報を選択していないか(ゼロベース思考できているか)
- そのロジックを採用した場合にリスクはないか
- そのロジックの弱いところはなにか、そこを突かれたときの反論はあるか
これは、実際に人に何かを提案する前には、必須のステップとしても良いと思いますので、提案の場があったらチャンスだと思って試してみましょう。
ロジカル・シンキングを学ぶのにおすすめの本
筆者がロジカル・シンキングを学ぶ上で役に立った本を紹介します。
思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 (日本語) 単行本
ロジカル・シンキング (Best solution) (日本語) 単行本
一応本を紹介しましたが、いちばん大事なのは、本を読むことではなく、日常的な訓練となります。
私は、ロジカル・シンキングが全くできずに、2年以上の時間をかけて、30冊以上の本を読み勉強しました。
良い本ももちろんあったのですが、正直「理論や言葉はわかるんだけど、実際に動やったらできるようになるか書いてないなぁ」という印象が強かったです。
そのような経験もあり、もっと多くの人に最短でロジカル・シンキングができるようになってほしいと思って、この記事を書いているので、本記事では大体の本に書いてあることを、初心者にわかりやすく説明できていると思います。
私のように本にばかり頼らず、根気よく努力していってくださいね!